【2023年5月12日公布】フリーランス新法

  • 各種法改正

弁護士: 野田俊之

はじめに

昨今の働き方改革の流れを受けて、「フリーランス」や副業・複業という言葉を耳にする機会が増えてきました。
実態としても、2020年5月に内閣官房日本経済再生総合事務局が発表した「フリーランス実態調査結果」(首相官邸HP参照)では、日本でフリーランスの働き方をする人は、副業として働く人も含めて、462万人と推計されており、フリーランスという働き方を選択する人が相当数存在することがうかがえます。

フリーランスについては、現時点で法律上の定義や統一的な定義があるわけではありませんが、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(公式HP)では、次の通り定義されています。

特定の企業や団体、組織に専従しない独立した形態で、自身の専門知識やスキルを提供して対価を得る人

「フリーランス白書2021」5頁など(https://blog.freelance-jp.org/20210325-12032/)

そして、IT業界においても、多くの方がフリーランスエンジニアとして働いておられます(上記のフリーランス協会が公表している「フリーランス白書2023」のフリーランス実態調査(同協会HP参照)によると、回答者850名のうち、最も多かった「クリエイティブ・web・フォト系」(26.6%)に次いで、14.8%が「エンジニア・技術開発系」であったとのことであり、フリーランスのうちIT分野で働く人が相当割合を占めていることがうかがえます)。

以上の通り、働き方改革等により増加するフリーランスで働く人々を保護することを目的に、2021年3月26日にフリーランスガイドライン(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン 」)が制定され、さらに、2023年5月12日にはいわゆるフリーランス新法(正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)が成立しました。

フリーランス新法については、本記事の執筆時点では施行日が決まっていませんが、施行日以降は、企業がフリーランスエンジニアなどのフリーランスに依頼を行う場合、同法の内容を遵守することが求められます。
そこで、今回のコラムでは、フリーランス新法の概要について、ご紹介します。

フリーランスの定義

今回成立した法律については、一般に「フリーランス新法」と呼ばれていますが、法律の正式名称は、上記の通り、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」というやや固い表現になっています。
そして、この法律には、実は、「フリーランス」という文言は登場せず、「フリーランス」が何を意味するかについても定義されていません

その代わり、本法律の適用対象となるフリーランスについて、「特定受託事業者」という文言を用いた上で、次の通り、定義されています(第2条第1項)。

この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

 個人であって、従業員を使用しないもの

 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの

要するに、個人であっても、従業員を使用して事業を行っている場合は、フリーランス新法の適用外になりますし、法人であっても、代表者以外に役員がおらず、従業員も使用せずに事業を行っている場合は、フリーランス新法の適用対象となることになります。

フリーランス新法により定められた義務

全体像

フリーランス新法においては、フリーランスへ依頼を行う企業等に対し、概ね、以下の義務が定められています。

  1. 給付内容の明示
  2. 報酬期日の設定
  3. 報酬減額等の禁止
  4. 募集情報の的確な表示
  5. 育児介護等に対する配慮・ハラスメント防止措置
  6. 解除等の予告

①~③については、フリーランスにかかる取引の適正化のための規制であり、下請法と類似した内容の規定となっています。
他方、④~⑥については、フリーランスの就業環境の整備のための規制であり、パワハラ防止措置を定める労働施策総合推進法や労働基準法の解雇予告の規定など労働者保護のための労働関係法令と類似した内容となっています。

以下、それぞれの内容について、ご紹介いたします。

①給付内容の明示

フリーランスへの発注者は、業務の依頼を行う際、フリーランスに対し、依頼する業務の内容、報酬の額、支払期日等を、書面又は電磁的方法により明示しなければなりません(第3条第1項)。

(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第三条
業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

なお、上記で引用した条文にも記載されている通り、フリーランス新法においては、フリーランスに業務を委託する発注者について、「業務委託事業者」や「特定業務委託事業者」という文言を用いて、その内容を定義しています(第2条第5項・第6項)。
基本的には、フリーランスへ何らかの業務を発注する企業のことを指すとご理解いただければよいのですが(以下では、便宜上「発注者」と表記します。)、義務の内容によって、微妙に適用範囲が異なりますので、具体的な取引について検討される際は、条文を確認されることをおすすめします。 

②報酬期日

フリーランス新法では、フリーランスに対する報酬の支払期日について、次の通り規定されています(第4条第1項第2項)。

 支払期日
フリーランス新法の定める支払期日給付を受領した日から60日以内、
かつ、できるだけ短い期間
給付を受領した日から60日を超える支払期日が定められたとき給付を受領した日から60日を経過する日
報酬の支払期日が定められなかったとき給付を受領した日

この報酬期日については、フリーランス新法において、「給付の内容について検査をするかどうかを問わず」、給付を受領した日から60日以内と定められていることに注意が必要です
企業においては、業務委託契約で取引先から何らかの成果物を受領した際、検収手続として、成果物の検査を行い、その検査に合格した物を成果物として受領した後、支払を行うというのが一般的かと思います。
しかしながら、フリーランス新法においては、「給付の内容について検査をするかどうかを問わず」と明記されているように、給付の内容を受領したまさにその日を起算点とする支払期日までに報酬を支払わないと、違反となってしまいます

この点については、下請法にも同様の規定が設けられているのですが(同法第2条の2)、下請法に関しては、締切支払制度を採用している場合に、意図せず下請法の要求する支払期日を徒過してしまうケースが散見されます(例えば、「月末締翌々月末払」の場合、7月10日に受領した給付に対する報酬の支払日は9月30日となるところ、報酬の支払日が給付を受領した日から60日を超えることになってしまいます。)。
フリーランス新法に関しても、上記のようなケースは法律違反になってしまいますので、下請法の点も併せ、支払スケジュール等を確認されることをおすすめします。

(報酬の支払期日等)
第四条 特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

再委託の場合 

以上に加え、フリーランス新法は、フリーランスに対して適正に報酬が支払われるように、フリーランスに対する業務委託が再委託である場合の報酬の支払期日についても規定しています。
この場合、フリーランスへの発注者(元委託者から委託を受けた下請企業の立場になります)は、元委託者からの対価の支払期日から30日以内、かつ、できる限り短い期間内を、フリーランスに対する報酬の支払期日に設定した上で、その期日までに報酬を支払わなければなりません(フリーランス新法第4条第3項)。

(報酬の支払期日等)
第四条
 前二項の規定にかかわらず、他の事業者(以下この項及び第六項において「元委託者」という。)から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る業務(以下この項及び第六項において「元委託業務」という。)の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合(前条第一項の規定により再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)その他の公正取引委員会規則で定める事項を特定受託事業者に対し明示した場合に限る。)には、当該再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

③報酬減額等の禁止

フリーランスへの発注者は、フリーランスに対し、以下の行為を行うことが禁止されます(フリーランス新法第5条第1項)。
但し、同条項の規定が適用されるのは、発注者が、政令で定める期間以上の期間の業務委託を行う場合に限られていますので、具体的な取引に本条項の適用があるか否かは、今後制定される政令を踏まえ検討する必要があります。

  • フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、給付の受領を拒むこと。
  • フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、報酬を減額すること。
  • フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、返品すること。
  • 通常の相場に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること。
  • 正当な理由がないのに、自己の指定する物の購入又は役務の利用を強制すること。
  • 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
  • フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、フリーランスの給付の内容の変更又は給付のやり直しをさせること。

上記の禁止事項についても、下請法に同様の規定が設けられています(第4条)。そのため、今後、フリーランス新法に関して上記の禁止事項に該当するか否かを判断するにあたっても、下請法に関する解釈が参考になると思われます。
下請法については、公正取引委員会が詳細な解説を公表していますので、こちらの内容もご参照ください(参照:「令和3年11月版下請取引適正化推進講習会テキスト」)。

④募集情報の的確な表示

フリーランスへの発注者が、広告等によりフリーランスの募集を行う場合、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をすることが禁じられるとともに、募集に関する情報を正確かつ最新の内容に保つことが義務づけられました(フリーランス新法第12条)。

この点については、職業安定法においても、労働者の募集を行う者に対し同様の義務が課されているところであり(同法第5条の4)、募集に関して、フリーランスに対しても労働者と同様の保護が図られたものということができます。

(募集情報の的確な表示)
第十二条 特定業務委託事業者は、新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法(次項において「広告等」という。)により、その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。
 特定業務委託事業者は、広告等により前項の情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。

⑤育児介護等に対する配慮・ハラスメント防止措置

フリーランスへの発注者に対し、フリーランスからの申出に応じ、フリーランスが妊娠、出産、育児又は介護と両立しながら働くことができるように、フリーランスの状況に応じた必要な配慮をすることが義務づけられました(フリーランス新法第13条第1項)。
但し、政令で定める期間以上の期間の業務委託(継続的業務委託)を行うフリーランス以外のフリーランス(単発・短期間の発注の場合など)については、努力義務とされています(同法第2項)。

また、ハラスメントに関して、フリーランスへの発注者に対し、セクハラ・マタハラ・パワハラに適切に対応するために必要な措置を講じる義務が課されました(フリーランス新法第14条第1項)。

後者のハラスメント防止措置に関しては、男女雇用機会均等法や育児・介護休業、労働施策総合推進法により、企業に対し、労働者に対するハラスメント防止措置を講じることが義務づけられているところですが、今回のフリーランス新法により、フリーランスに対しても、同様のハラスメント対策を講じることが求められることになります。

(妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮)
第十三条 特定業務委託事業者は、その行う業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条及び第十六条第一項において「継続的業務委託」という。)の相手方である特定受託事業者からの申出に応じて、当該特定受託事業者(当該特定受託事業者が第二条第一項第二号に掲げる法人である場合にあっては、その代表者)が妊娠、出産若しくは育児又は介護(以下この条において「育児介護等」という。)と両立しつつ当該継続的業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければならない。
 特定業務委託事業者は、その行う継続的業務委託以外の業務委託の相手方である特定受託事業者からの申出に応じて、当該特定受託事業者(当該特定受託事業者が第二条第一項第二号に掲げる法人である場合にあっては、その代表者)が育児介護等と両立しつつ当該業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をするよう努めなければならない。

(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)
第十四条 特定業務委託事業者は、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対し当該業務委託に関して行われる次の各号に規定する言動により、当該各号に掲げる状況に至ることのないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。
 性的な言動に対する特定受託業務従事者の対応によりその者(その者が第二条第一項第二号に掲げる法人の代表者である場合にあっては、当該法人)に係る業務委託の条件について不利益を与え、又は性的な言動により特定受託業務従事者の就業環境を害すること。
 特定受託業務従事者の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動によりその者の就業環境を害すること。
 取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより特定受託業務従事者の就業環境を害すること。
 特定業務委託事業者は、特定受託業務従事者が前項の相談を行ったこと又は特定業務委託事業者による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その者(その者が第二条第一項第二号に掲げる法人の代表者である場合にあっては、当該法人)に対し、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをしてはならない。

⑥解除等の予告

フリーランスへの発注者が、契約の解除をしようとする場合、フリーランスに対し、少なくとも30日前までに、その予告をすることが義務づけられました(フリーランス新法第16条第1項)。
但し、この解除等の予告義務については、上記の育児介護等に対する配慮義務と同様、政令で定める期間以上の期間の業務委託(継続的業務委託)を行うフリーランスのみが適用対象となります。

(解除等の予告)
第十六条 特定業務委託事業者は、継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。次項において同じ。)をしようとする場合には、当該契約の相手方である特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、少なくとも三十日前までに、その予告をしなければならない。ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。
 特定受託事業者が、前項の予告がされた日から同項の契約が満了する日までの間において、契約の解除の理由の開示を特定業務委託事業者に請求した場合には、当該特定業務委託事業者は、当該特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なくこれを開示しなければならない。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。

まとめ

以上、今回は、2023年5月12日に公布されたフリーランス新法についてご紹介いたしました。

フリーランス新法については、本コラム執筆時点で施行日が決まっておらず、また、法律の内容についても詳細が定められていない部分があるため、今後も、法令の動向を注視する必要があります。

IT業界においても、フリーランスエンジニアに業務を依頼している企業を中心に、フリーランス新法の影響を受ける可能性がありますので、具体的な取引の進め方に悩まれた際は、何なりとご相談ください。