サービス利用規約と「定型約款」 (3)定型約款の変更
- 各種利用規約の作成業務
弁護士: 山﨑慶一朗
1 定型約款の変更(実体的要件)
契約の内容は、本来、契約当事者の合意がなければ変更することはできませんが、多数の相手方との契約内容を画一的に定めるべき定型取引において、定型約款準備者側で約款中の条項を変更する必要性が生じた場合に、全ての相手方から個別に同意を得なければならないとすると、定型約款のメリットを生かすことができません。
そこで、民法では、以下のいずれかの要件(実体的要件)を満たせば、適切な手続を経たうえで、定型約款を変更することができるとされています(民法548条の4第1項)。
- 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき(利益変更)
- 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、本条の規定により定型約款を変更することがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき(不利益変更)
このうち、特に2つめの要件は、定型約款の内容を相手方に不利益に変更する場合の要件を定めたものであり、実務上問題となることも多いため、以下で解説します。
2 不利益変更の要件① 契約目的に反しないこと
そもそも契約目的に反する変更は認められないこととされています。なお、「契約目的」とは、相手方の主観的な意図を意味するのではなく、契約の両当事者で共有された、当該契約の目的を意味します。
3 不利益変更の要件② 合理性
加えて、変更に係る諸事情に照らして変更が合理的であることが要件とされています。また、合理性の有無の判断要素として、以下が列挙されています。
(1)変更の必要性
定型約款準備者において変更を行う必要が生じた理由に加え、個別の同意を得ることが困難であるとの事情が考慮されます。
(2)変更後の内容の相当性
個別具体的な事情に応じて、相手方に及ぶ不利益の性質や程度等を勘案して判断されます。
(3)変更条項の有無・内容
定型約款準備者が約款を一方的に変更することがあり得る旨の条項が設けられているかどうか、また、その内容が考慮されます。
(4)その他の事情
相手方が受ける不利益を軽減させる措置(変更を望まない者に解除権を付与する等)が講じられているかなどが考慮されます。
4 変更手続について
定型約款の変更を行うには、上で述べた実体的要件のほかに、以下の手続的要件をいずれも満たす必要があり(民法548条の4第2項)、特に不利益変更(同条1項第2号)の場合には、「周知」を変更の効力発生時期までに行わない場合、変更の効力が生じないとされているため注意が必要です(同条第3項)。
- 定型約款の変更の効力発生時期を定めること(効力発生時期の定め)
- 定型約款を変更する旨および変更後の定型約款の内容ならびにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知すること(周知)
5 まとめ
以上のとおり、定型約款は、一定の要件を満たせば、相手方から個別の同意を得ることなく変更することができ、画一的な契約内容を定める必要のある取引においては非常に有用な制度ですが、変更の要件を満たすか否かの判断が容易でないケースもありますので、定型約款の変更を検討される際は、弁護士に相談されることをお勧めします。