個人情報保護法の案内(求職者の個人情報)
- 個人情報・プライバシー保護
弁護士: 谷 貴洋
1 はじめに
企業には、採用の自由があり、その一環として、採否決定に必要な事項を知るために、採用面接での質問等の方法によって、求職者から情報を取得することができるとされています。
ただし、個人情報保護法や職業安定法において、個人情報の取得について規制されていますので、それら規制を遵守して取得をする必要があります。本コラムでは、求職者の個人情報を取得するにあたっての注意点を解説します。
2 個人情報保護法上の規制
企業が求職者の個人情報を取得する場面においては、利用目的をできる限り特定し、その利用目的を通知又は公表しなければなりません(個人情報保護法第17条第1項、第21条第1項。通知・公表に優先順位はなく、企業において選択しうるとされています)。具体的には、応募書類に記載をしておくか、あるいは、企業のウェブサイトに記載をしておくことが考えられますが、利用目的の特定に当たっては、「単に抽象的、一般的に特定するのではなく、個人情報が個人情報取扱事業者において、最終的にどのような事業の用に供され、どのような目的で個人情報を利用されるのかが、本人にとって一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に特定することが望ましい」とされています(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(令和4年9月一部改正)3-1-1)。
なお、企業が、求職者の病歴等の「要配慮個人情報」を取得する際には、利用目的の通知・公表に加えて、原則として、あらかじめ本人の同意を得る必要があります(第20条第1項)。この点、求職者本人がSNS等で公表している要配慮個人情報を取得する場合には、例外的に本人の同意が不要とされる場合(第20条2項7号)に該当すると考えられますが、後述のとおり、職業安定法との関係では問題が生じ得る(取得が禁じられる場合にあたり得る)ことに注意を要します。
3 職業安定法上の規制
求職者の個人情報の取扱いについて、使用者は、「労働者の募集を行う者」に該当することから、職業安定法第5条の5が適用されます。同条は、求職者の個人情報を収集し、保管し、または使用するに当たっては、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合を除き、業務の目的の範囲内で収取し、当該収集の目的の範囲内で保管、使用をしなければならないと定めています。
そして、同条等を受けた職業安定法指針(「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(最終改正 令和4年厚生労働省告示第198号))は、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除き、以下の個人情報を収集してはならないと定めています(指針第五、一、(二))
イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
ロ 思想及び信条
ハ 労働組合への加入状況
4 リファレンスチェックについて
求職者の経歴や勤務状況等などの情報を、求職者の前職の企業に照会するリファレンスチェックが行われることがあり、これを業務として行っている企業も見受けられます。
ただ、元従業員の勤務状況等を提供することは、個人データの第三者提供(個人情報保護法第27条第1項)に該当すると考えられることから、元従業員の同意なく提供することはできません。この点、『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び 「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&A』のQ7-12においては、「退職した従業者に関する在籍状況や勤務状況等が個人データ(個人情報データベース等を構成する個人情報)になっている場合、問合せに答えることは個人データの第三者提供に該当し、本人の同意がある場合や第三者提供制限の例外事由に該当する場合を除いて、第三者に提供することはできません。」と説明されています。
なお、個人データを構成しない元従業員の個人情報については、第三者提供の制限の対象に当たらないものの、プライバシー権侵害のリスクがあることから、元従業員本人の同意を得た上で、情報提供に応じるのが望ましいでしょう。