定型約款 - 契約への組み入れの「例外」
- 各種利用規約の作成業務
弁護士: 谷 貴洋
第1 定型約款 - 契約への組み入れの「例外」
現代の社会においては、インターネットを利用して不特定多数の顧客と安定して取引を行うために、画一的な取引条件を定めた約款を用いることが必要不可欠となっています。
他方で、こちらのコラムで紹介されているように、定型約款の個別の条項中、顧客の利益を一方的に害する条項については合意をしなかった(=契約内容とならない)ものとみなされます(民法548条の2第2項)。
顧客の利益を一方的に害するか否かは、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして」判断されます。
本コラムでは、民法改正後の比較的新しい裁判例のうち、民法548条の2第2項を適用して契約への組み入れを否定した裁判例を紹介します。
第2 東京地判令和3年5月19日
本件の原告はインターネットショップ上で商品を販売する会社で、そのショップのホームページ上の利用規約で、転売禁止と違反した場合の違約金条項(”本件違約金条項”)を定めていました。被告である購入者が商品の転売をしたことを理由として、原告が被告に対して、違約金条項に基づき違約金の支払い等を求めた事案です。
裁判所は、原告の利用規約が定型約款に該当するため、被告は、本件違約金条項に合意したものとみなされると判断しつつも、本件違約金条項は、民法548条の2第2項により合意しなかったものとみなされるとしました。
その理由として、
● 本件違約金条項は、損害賠償額の予定と推定されるところ(民法420条2項)、本件商品の購入者が転売禁止合意に違反した場合の原告の損害額が50万円に達するとは考え難いから,これは契約の相手方の義務を加重する条項である(※商品の販売代金は約1万5000円、違約金は50万円)。
●インターネットサイトを利用した物品の購入にあたっては、購入者が約款を読まずに物品を購入することは往々にしてあることで、本件商品が販売開始と同時に瞬時に売り切れとなる人気商品であることから、購入しようとする者はできるだけ速やかに購入手続を進めようとするものと解され、購入者が利用規約を確認することは期待できない。そして、原告もそのことを認識し得た。
●利用規約以外では、本件商品の購入者が本件商品を転売した場合に違約金の支払義務を負うことを明示していなかった(※利用規約のページを確認するためには、購入申込画面から、利用規約同意画面のページに移動し、その利用規約同意画面から利用規約のページに移動する構成となっていました)等から、被告が本件商品の購入前に本件違約金条項の存在を認識することは著しく困難であったと認められる。
●本件違約金条項に基づく違約金は最低でも50万円であり,本件ショップでの本件商品の販売価格の約32倍であり,違約金の額は極めて過大であった。
第3 おわりに
以上の裁判例から、違約金の額を適切に設定することや、とりわけ購入申込者への表示方法を工夫(例えば、商品購入ボタンとともに利用規約へのリンクが明瞭に設けられおり、かつ、購入ボタンのすぐ近くの場所に、利用規約上、転売の場合に違約金の支払義務を負うことを明示した文言を入れる)することが必要になると考えられます。
以上