抱き合わせ販売とは

弁護士: 野田俊之

はじめに

先日、公正取引委員会が、仮想化ソフトウエア最大手に対して「抱き合わせ販売」を行った疑いが強まったことから、立ち入り検査を行ったという報道を目にした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここで問題とされている「抱き合わせ販売」という用語、初めて目にしたという方も多いと思います。

そこで、今回のコラムでは、この「抱き合わせ販売」について、ご紹介します。

定義

抱き合わせ販売というのは、いわゆる独占禁止法(正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」。以下では「独禁法」といいます。)により規制されています。

さらに細かく言うと、独禁法上、企業(事業者)は、不公正な取引方法を行ってはならないとされており(第19条)、この不公正な取引方法については、独禁法第2条9項及び公正取引員会による告示(一般指定及び特殊指定)において、その内容が定められています。
今回取り扱う「抱き合わせ販売」についても、この不公正な取引方法の一つとして、独禁法上禁止されているという構造になります。

そして、法令上、抱き合わせ販売については、

相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ…(略)…ること。

と定義されております(一般指定第10項)。
要するに、企業が、商品A(主たる商品)を販売するに際し、不当に、他の商品(従たる商品)も併せて相手に購入させることを指しています。

この定義において「不当に」と規定されているように、抱き合わせ販売すべてが独禁法上違法とされているわけではなく、後述する通り、自由競争を阻害するおそれがある場合(類型①ー他者排除型)や競争手段として不公正な場合(類型②-不要品強要型)に、違法との評価を受けることとなります。

具体的に問題となる場面

定義だけを読んでも、具体的に問題となる場面はイメージしにくいと思います。そこで、以下では具体例を紹介したいと思います。

マイクロソフト事件(後述の類型①ー他者排除型)

抱き合わせ販売が問題となった有名な事例として、マイクロソフト社のケースがあります。

マイクロソフトといえば、ExcelやWordなどのoffice関連製品で有名ですが、このケースの前提として、当時の市場の状況を理解しておくのが有益と思いますので、まずこの点について触れます。
今ではあまり想像できませんが、平成6年(1994年)当時、マイクロソフト社の発売する表計算ソフトのExcelは、表計算ソフト市場で支配的地位(圧倒的なシェア1位)にあった一方で、ワープロソフトのWordは、ワープロソフト市場で「一太郎」に次ぐシェア2位でした。
こうした状況の中で、日本マイクロソフト社は、平成7年(1995年)から、パソコンメーカーとの間で、ExcelとWordをプレインストールまたは同梱させる契約を締結しました。
その結果、ワープロソフト市場におけるWordのシェアが拡大し、ついにはシェア第1位を獲得しました。

以上のマイクロソフト社の販売方法、つまり、シェア1位のExcelと、当時シェア2位だったWordを同時にパソコンに搭載させる販売方法について、公正取引委員会は、違法な抱き合わせ販売に当たると判断しました。

藤田屋事件(後述の類型②ー不要品強要型)

もう一つ、藤田屋事件というケースをご紹介します。

こちらのケースでは、ゲームソフトの卸売業者が、小売業者に対し、当時絶大な人気を誇ったゲームソフト「ドラゴンクエストⅣ」を販売するにあたり、卸売業者で在庫となっていたゲームソフトを購入することを条件に「ドラゴンクエストⅣ」を販売するという手法を取りました。

公正取引委員会は、上記の販売手法について、「ドラゴンクエストⅣ」が人気の高い商品であることから、その市場力を利用して価格・品質等によらず他のゲームソフトを抱き合わせて販売したものであり、買手の商品選択の自由を妨げ、卸売業者間の能率競争を侵害し競争手段として公正を欠くなどと行為の不当性を指摘し、抱き合わせ販売に当たると判断しました(公正取引委員会審判審決平成4年2月28日参照)。

抱き合わせ販売に関するガイドライン

ここまで紹介してきた抱き合わせ販売については、公正取引員会が「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」というガイドライン(以下、「流通取引慣行ガイドライン」)を制定しています(詳細は、公正取引委員会のHPをご覧ください。)。
そのため、実務においては、このガイドラインを参照しつつ、企業が行おうとしている取引が違法な抱き合わせ販売として問題にならないか、検討する必要があります。

流通取引慣行ガイドラインは、抱き合わせ販売が独禁法上問題となる場合について、次の通り述べています。

類型①
ある商品(主たる商品)の市場における有力な事業者が,取引の相手方に対し,当該商品の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることによって,従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には(注10),不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定10項(抱き合わせ販売等))。

類型②
抱き合わせ販売は,顧客の選択の自由を妨げるおそれがあり,価格,品質,サービスを中心とする能率競争の観点から,競争手段として不当である場合にも,不公正な取引方法に該当し,違法となる。
※類型①②は筆者による。

この通り、流通取引慣行ガイドラインにおいては、
・類型①ー他者排除型:従たる商品市場における自由な競争を減殺するもの
・類型②ー不要品強要型:競争手段として不公正であるもの
の2つの類型について、違法な抱き合わせ販売と判断していると整理できます(各類型の名称は、白石忠志『独占禁止法』(有斐閣・第4版)による)。

さらに、流通取引慣行ガイドラインは、それぞれの類型について、以下のような判断基準を示しています。

  • 類型①ー他者排除型
    「市場閉鎖効果が生じる場合」=新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じるか否かを、抱き合わせ販売を行う企業の市場における地位(シェアや順位等)、ブランド間競争の状況(商品の差別化の程度等)などを踏まえて考慮する。
  • 類型②ー不要品強要型
    主たる商品の市場力や従たる商品の特性,抱き合わせの態様のほか,当該行為の対象とされる相手方の数,当該行為の反復,継続性,行為の伝播性等の行為の広がりを総合的に考慮する。

以上、企業において抱き合わせ販売を行うにあたっては、上記の観点から、独禁法上違法とされるリスクの有無やその程度を踏まえ、判断することが求められます。

なお、抱き合わせ販売に関しては、そもそも「抱き合わせ販売」に該当するか否かという観点から、ある商品と一緒に販売する商品が「他の商品」といえるか、ある商品の販売に併せて他の商品を「購入させる」といえるかが問題となり、この点についても、流通取引慣行ガイドラインにおいて詳しく言及されていますが、本コラムでは割愛いたします。詳しくは流通取引慣行ガイドライン第1部第2の7(3)をご覧ください。

まとめ

以上、今回は、ニュースで取り上げられた「抱き合わせ販売」についてご紹介いたしました。

ご覧いただいたように、一見独占禁止法とは縁遠いように思えるIT業界においても、独占禁止法の規制が問題となってくるケースは存在しますので、特に新たな取引や販売手法を検討する際には注意が必要です。

当事務所には、IT業界に関する知識や経験はもちろん、企業内弁護士として実際の企業間取引に対応してきた経験やノウハウを有する弁護士も複数在籍しておりますので、具体的な取引の進め方に悩まれた際は、何なりとご相談ください。