改正電気通信事業法(2023年6月16日施行)で導入された「外部送信規律」って?(2)
- 電気通信事業法
弁護士: 玄 政和
第1 はじめに
第1回では、2023年6月16日より施行された改正電気通信事業法に基づく外部送信規律に関する概要をご説明しました。今回は、どのような者が外部送信規律の対象となるかについて、具体的には
ⅰ 「電気通信事業者又は第三号事業を営む者」
かつ
ⅱ 「内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者」
という要件を満たすのはどのような場合かについてご説明いたします。
第2 ⅰ 「電気通信事業者」又は「第三号事業を営む者」とは
1 はじめに
どのような者が外部送信規律の対象となる「電気通信事業者」または「第三号事業を営む者」に該当するのかについては、総務省の「電気通信事業参入マニュアル[追補版](R5.1.30)」、「電気通信事業参入マニュアル[追補版]ガイドブック(R5.1.30)」(以下「ガイドブック」といいます。)や「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン(令和4年個人情報保護委員会・総務省告示第4号)」(以下「ガイドライン」といいます。)にて解説されています。詳細はそれぞれの資料をご確認いただければと思いますが、以下、ガイドブックの図をもとに必要な範囲で解説します。
2 電気通信事業法の規律対象に関する全体イメージと具体例
ガイドブック4頁では、電気通信事業法の規律対象に対する全体イメージが記載されています(下記図参照)。ここでは、一番大きな括りとして①「電気通信役務(サービス)を提供する者」、次に大きな括りとして②「電気通信事業を営む者」、一番小さな括りとして③「電気通信事業者」という分類がなされています。
以下、ガイドブックに従い、電気通信事業の規律対象となる者がどのようなものか解説します(それぞれの分類に関する詳細な解説・具体例はガイドブック5~10頁、13~28頁を参照ください)。
(出典:電気通信事業参入マニュアル[追補版]ガイドブック(R5.1.30)4p)
まず、①「電気通信役務(サービス)を提供する者」については、具体例として「企業・個人等のホームページ運営」「自社商品のオンライン販売」等が挙げられており、これについては、「電気通信事業を営む者」に該当せず、電気通信事業法の規律対象外とされています。したがって、この場合は、今回の改正法で導入される外部送信規律の適用対象外となります。
順番が前後しますが、③「電気通信事業者」についてみると、他人の通信を媒介しているか、又は電気通信回線設備を設置する事業者、たとえば、固定電話、携帯電話、電子メール、インターネット接続サービス等を提供している事業者がこれに該当し、総務省への登録又は届出が必要となります。なお、登録又は届出義務は、今回の法改正で設けられたものではなく、従前から存在するものです。
次に、②「電気通信事業を営む者」とは、③「電気通信事業者」と異なり、他人の通信を媒介せず、かつ、電気通信回線設備を設置しない事業者、たとえば、SNS、オンライン検索サービス、各種情報のオンライン提供サービス等を提供している事業者がこれにあたります。この「電気通信事業を営む者」がいわゆる「第三号事業を営む者」であり(*)、総務省への登録又は届出は不要です。
*電気通信事業第2 条第7号のイで、「……第164条第1項第3号に掲げる電気通信事業(以下「第三号事業」という。)を営む者」という記述があり、同法第164条第1項第3号では、「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業」(かっこ書き省略)とされていることから、「第三号事業を営む者」といいます。
上記の記載だけでは、①「電気通信役務(サービス)を提供する者」と②「電気通信事業を営む者」の違いがわかりにくいかと思います。ガイドブック5頁では、②に該当するか否かのフローチャートが記載されています。ポイントとしては、ⅰ 自己のためではなく他人のために(他人の需要に応じるため)に役務を提供しているか、ⅱ 電気通信設備を用いて反復継続してサービスを提供しているか、ⅲ 料金を徴収するなど、利益を得ようとしているかの3つです。
(出典:電気通信事業参入マニュアル[追補版]ガイドブック(R5.1.30)5p)
また、ガイドブック11頁では、上記①~③それぞれの分類に関する具体例と考え方のポイントについて解説されています。ポイントとしては、上記のガイドブック5頁と同様の内容ですが、「電気通信役務の提供自体が事業(目的)」であって、当該事業で利益を得ようとする場合は、「電気通信事業を営む者」に該当するとされています。また、企業・個人・自治会等のホームページ運営等「自己の情報発信のために運営」する場合や、モノ・商品についてのオンライン販売等、電気通信役務の提供が事業の目的ではなく、オンラインを「事業の遂行の手段」として、活用している場合は、「他人の需要」ではなく、「自己の需要のため」に実施しているものであり、「電気通信事業」に該当しないとされています。
(出典:電気通信事業参入マニュアル[追補版]ガイドブック(R5.1.30)11p)
ガイドブック13~28頁では、個別具体的なオンラインサービスに関し、上記①~③のいずれに該当するかについて紹介されていますので、ご参照ください。
3 ⅱ 「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」
(1)はじめに
総務省の外部送信規律に関するパンフレットの7~10pでは、外部送信規律適用の要件である「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」に該当する4つの場合と、該当しないとされる場合について紹介されています(条文上は、電気通信事業法施行規則第22条の2の27に規定されています)。
(出典:総務省パンフレット「外部送信規律について ウェブサイトやアプリケーションを運営している皆様、御確認ください!」7~10p)
このパンフレットの内容自体は簡潔で大まかなイメージをつかむにはわかりやすいのですが、その反面で個々の電気通信役務について詳細には言及していません。詳細を把握するためには、ガイドラインの解説版250~253pを確認する必要があります。以下、ガイドラインの解説内容に従いご説明いたします。
(2)「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」に該当するもの
①他人の通信を媒介する電気通信役務(施行規則第22条の2の27第1号)
パンフレットでは「メッセージ媒介サービス」とされているものです。
「他人の通信を媒介する」とは、他人の依頼を受けて、情報をその内容を変更することなく、伝送・交換し、隔地者間の通信を取次、又は仲介してそれを完成させることをいいます(ガイドライン251p)。外部送信規律との関係では、情報の加工・編集を行わず、かつ、送信時の通信の宛先として受信者を指定する場合に該当し、具体的には、メールサービス、ダイレクトメッセージサービス、参加者を限定した(宛先を指定した)会議が可能なウェブ会議システム等が想定されるとしています(同ページ)。
②その記録媒体に情報を記録し、又はその送信装置に情報を入力する電気通信を利用者から受信し、これにより当該記録媒体に記録され、又は当該送信装置に入力された情報 を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務(施行規則第22条の2の27第2号)
パンフレットでは「SNS」とされているものです。
具体的には、利用者(特定の利用者も含む)が情報を入力(書き込み、投稿、出品、募集 などを含む)し、当該情報を不特定の利用者が受信(閲覧)できるもののことをいい、アカウント登録や利用料の支払をすれば誰でも受信(閲覧)できる場合も、「不特定の利用者」に含まれます。他方、閉域網で提供される社内システムなどは、審査等により利用者が限定されており、「不特定の利用者」ではなく、「特定の利用者」となるため、該当しません(ガイドライン251p)。
「その記録媒体に情報を記録し…これにより当該記録媒体に記録され…た情報を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務」とは、利用者から受信した情報を、電気通信事業者の電気通信設備(ウェブサーバ等)の記録媒体(ハードディスク等)において記録して蓄積しておき、不特定の 利用者の求めに応じて送信するサービスをいい、具体的には、SNS、電子掲示板、動画共有サービス、オンラインショッピングモール(※)、シェアリングサービス、マッチングサービス等が該当するとされています(ガイドライン251p)。
※「オンラインショッピングモール」とは、インターネット経由で複数の店舗でネットショッピングを 行うことができる又は複数の出品者の商品等を購入できる「場」を提供するものをいいます(ガイドライン252p)。他方、ガイドラインでは、a 小売事業者がモノ・商品をオンライン販売したり、b メーカーが製造した商品をオンライン販売したり(ネット販売のみを行う場合を含む。)、c 同様に問合せ等に対応すること、などについては、 自己の需要に応ずるものであり、他人の需要に応ずるものではないことから、電気通信事業には該当せず、電気通信事業法の規律の適用対象とならないとされている(同ページ)ため、留意が必要です。
「その送信装置に情報を入力する電気通信を利用者から受信し、これにより…当該送信装置に入力された情報を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する電気通 信設備を他人の用に供する電気通信役務」とは、利用者から受信した情報を、電気通信事業者の送信装置(ストリーミングサーバ等)から即時に(リアルタイムで)不特定の利用者の 求めに応じて送信するサービスのことであり、具体的には、ライブストリーミングサービス やオンラインゲーム等が該当するとされています(ガイドライン251~252p)。
③入力された検索情報に対応して、当該検索情報が記録された全てのウェブページのドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務(施行規則第22条の2の27第3号)
パンフレットでは「検索サービス」とされているものです。
検索したい単語等の検索情報を入力すると、インターネット上における、当該検索情報が 記録された全てのウェブページの所在に関する情報を検索して表示する、いわゆるオンライン検索サービスが該当します。ここでいう「全てのウェブページ」は、通常の方法により閲覧ができるものに限られ、 例えば違法性ゆえに閲覧が制限されているウェブページや特殊なソフト等を使用しないとアクセスできないようなウェブページなどは含まれないとされています(ガイドライン252p)
また、検索できる分野を特定分野に限った検索サービスは、下記④の電気通信役務に該当するとされています(同ページ) 。
④不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であって、不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするもの(施行規則第22条の2の27第4号)
パンフレットでは「ホームページの運営[ニュースサイト、まとめサイト等各種情報のオンライン提供]」とされているものです。
不特定の利用者の求めに応じて情報を送信し、情報の閲覧に供する、各種情報のオンライ ン提供サービスであり、具体的には、ニュースや気象情報等の配信を行うウェブサイトやアプリケーション、動画配信サービス、オンライン地図サービス等が該当します(ガイドライン252p)。
アカウント登録や利用料の支払をすれば誰でも受信(閲覧)できる場合も、「不特 定の利用者」に含まれ、他方、閉域網で提供される社内システムなどは、審査等により利 用者が限定されており、「不特定の利用者」ではなく、「特定の利用者」となるため、該当しないとされています(同ページ)。
(3)「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」に該当しない場合
パンフレット10pでは、ホームページの運営について、自社商品等のオンライン販売や、企業等のホームページ運営・個人ブログは、自己の需要のために運営するものであることから、「電気通信事業」に該当せず、外部送信規律の対象にはならないとしています。
また、ガイドラインでは、
・情報発信を行う企業・個人・自治会等のホームページについて、自己の情報発信のために運営している場合は、自己の需要のために電気通信役務を提供しているのであって、「他人の需要に応ずるために提供」(電気通信事業法第 2 条第 4 号)しているものではないから、同号の定義する「電気通信事業」に該当せず、電気通信事業法の規律の適用対象とならない(253p)
・金融事業者による証券・金融商品等についてのオンライン販売、小売事業者によるモノ・商品についてのオンライン販売、メーカーによる製造した商品についてのオンライン販売などについても、電気通信役務の提供を必ずしも前提としない、別の自らの本来業務の遂行手段としてオンラインを活用している場合(ネット専業銀行など、実店舗を有していない場合を含む。)は、自己の需要のために電気通信役務を提供しているため、同様に 「電気通信事業」に該当せず、電気通信事業法の規律の適用対象とならない(同ページ)
とされています。
他方で、注意が必要なのは、ガイドラインでは、
本来業務の遂行手段としての範囲を超えて、独立した事業としてオンラインサービスを提供している場合には、当該オンラインサービスは「電気通信事業」に該当する可能性もある。例えば、金融事業者によるオンライン取引等及び当該取引等に必要な株価等のオンライン情報提供は「電気通信事業」に該当しないが、当該金融事業者が証券・金融商品等についての オンライン販売のウェブサイトにおいて、オンライン取引等とは独立した金融情報のニュ ース配信を行っている場合には、当該ニュース配信は情報の送信(電気通信役務の提供)の事業として独立していると考えられ、「電気通信事業」に該当する(同ページ)
とされています。
どのような場合が「本来業務の遂行手段としての範囲を超えて、独立した事業としてオンラインサービスを提供している場合」に該当するかについては不明確なところが多く、電気通信事業に該当しないとされている情報発信を行う企業・個人・自治会等のホームページであっても、ブログやコラムなどの形式で様々な情報提供を行っている場合(いわゆる「オウンドメディア」と呼ばれるものを含む)については、判断に迷う事例が多く出てくることと思います。このような場合は、保守的に、適用対象になることを前提として対応することも考えられます。
(第3回以降に続きます)