改正電気通信事業法(2023年6月16日施行)で導入された「外部送信規律」って?(1)
- 電気通信事業法
弁護士: 玄 政和
第1 はじめに
2023年6月16日に施行された改正電気通信事業法により、「外部送信規律」という規律が新たに設けられることになり、対応に追われている企業も多いかと思います。
総務省のウェブサイトでは、外部送信規律について、「総務省では、利用者が安心して電気通信サービスを利用できるよう、透明性を高めるルールを設けました。具体的には、Webサイトやアプリを利用する際に、利用者の意思によらず、第三者に自身の情報が送信されている場合があります。利用者に関する情報が第三者に送信される場合に、利用者自身で確認できるようになります。」とされていますが、これだけではわかりづらいかと思います。
総務省は、複雑な外部送信規律の内容をわかりやすく説明するため、パンフレットを公表しています。このパンフレット5~6pでは、外部送信規律について、下記の通り図表を用いて、「電気通信事業法を営む者が、利用者がウェブサイトやアプリを閲覧した際に、利用者に関する情報(閲覧履歴やシステム仕様、システムログ等)を第三者のサーバに送信する際は、送信される利用者に関する情報の内容等を、通知・公表(利用者が容易に知りうる状態に置く)等しなければならない」旨説明されています。
(出典:総務省パンフレット「外部送信規律について ウェブサイトやアプリケーションを運営している皆様、御確認ください!」5~6p)
最初に述べた説明よりはいくらかわかりやすくなったかと思いますが、まだよくわからない点も多いかと思いますので、以下では、新たに設けられた外部送信規律について、総務省が公表している資料等をもとに、複数回にわけて解説します。なお、上記の総務省のパンフレットは、図表を使ってわかりやすく解説しているため、大まかな全体像をつかむためには良い資料だと思いますが、わかりやすさを重視しているため、厳密な解説をあえて行っていないところもあり、細かな点については、法律の条文や、別途公表されている外部送信規律FAQ(以下「FAQ」といいます。)や電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)の解説等を参照する必要があります。
第2 外部送信規律の概要
1 制度導入の背景(外部送信規律の趣旨)
パンフレットによれば、外部送信規律が導入された背景・趣旨について、概ね以下のように解説されています。
・近年、SNS、動画共有、ニュース配信、検索等のサービスを通じ、多くの情報流通がスマートフォン等を経由して行われてきている。このような様々なサービスを無料で提供するプラットフォーム事業者において、利用者に関する情報が取得・集積される傾向が強まっており、利用者にとっての利便性が高まる側面もある一方で、利用者が知らないうちに影響される可能性も高まっている。
・特にウェブサイトやアプリケーションを利用する際、利用者自身が認識していない状態で、利用者の端末から第三者に自身の情報が送信されている場合がある(外部送信)。そのように外部に送信された情報に基づき、例えば広告配信のカスタマイズ等、利用者が知らない間に、目にする情報が選別されるなどの影響を受けていることもあり得る。
・ウェブサイトやアプリケーションを運営している事業者においては、このような状況を利用者に知ってもらい、安心してサービスを利用できるようにすることが大切である。外部送信される情報についての透明性を高めることによって、自身のサービスの安全性や信頼性をアピールすることにもつながる。
2 外部送信規律が適用される要件と対応すべき事項
外部送信規律に関する改正電気通信事業法の条文は、第27条の12に規定されています。以下、ただし書きを除き引用します。
電気通信事業者又は第三号事業を営む者(内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者に限る。)は、その利用者に対し電気通信役務を提供する際に、当該利用者の電気通信設備を送信先とする情報送信指令通信(利用者の電気通信設備が有する情報送信機能(利用者の電気通信設備に記録された当該利用者に関する情報を当該利用者以外の者の電気通信設備に送信する機能をいう。以下この条において同じ。)を起動する指令を与える電気通信の送信をいう。以下この条において同じ。)を行おうとするときは、総務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により送信されることとなる当該利用者に関する情報の内容、当該情報の送信先となる電気通信設備その他の総務省令で定める事項を当該利用者に通知し、又は当該利用者が容易に知り得る状態に置かなければならない。
長い条文で、書きも多いのでわかりにくいですが、①誰が、②どのようなときに、③何をしなければならないのか、という3つの要素で分解してみると、ある程度理解しやすいかと思います。
①「誰が」という点ですが、上記条文上は、
ⅰ 「電気通信事業者又は第三号事業を営む者」で、
ⅱ 「内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者に限る」
とされています。これについては、第2回以降で解説します。
②「どのようなときに」という点ですが、上記条文上は、
その利用者に対し電気通信役務を提供する際に、当該利用者の電気通信設備を送信先とする情報送信指令通信を行おうとするとき
とされています。
「利用者の電気通信設備」には、パソコン、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等、ブラウザやアプリケーションを通じて規律対象となる電気通信役務の提供が受けられる電気通信設備が広く含まれます(FAQ2-1、ガイドライン7-1-1(2))。
そして、ガイドライン上、「情報送信指令通信」とは、
利用者の電気通信設備が有する情報送信機能を起動する指令を与える電気通信の送信をいう。
とされ、「情報送信機能」とは、
利用者の電気通信設備に記録された当該利用者に関する情報を当該利用者以外の者の電気通信設備に送信する機能をいう。
とされています。
括弧書きが続くのでわかりにくいですが、ざっくり、利用者に対し電気通信役務を提供する際に、当該利用者のパソコンやスマホを送信先として、これらに記録された当該利用者に関する情報を、当該利用者以外の外部の電気通信設備に向けて送信させる指令を行おうとする場合、と理解いただければよいかと思います。具体的に「利用者に関する情報」がどのようなものであり、どのような場合が当該情報の外部送信に当たるのかについては、第2回以降で解説します。
③「何をしなければならないのか」という点ですが、上記条文上は、
「総務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により送信されることとなる当該利用者に関する情報の内容、当該情報の送信先となる電気通信設備その他の総務省令で定める事項を当該利用者に通知し、又は当該利用者が容易に知り得る状態に置かなければならない。」
とされています。具体的には第2回以降で、義務を負わない例外的な場合も含めて解説します。
(第2回に続く)