JDLA「生成AI開発契約ガイドライン」(2025年9月)の概要
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弁護士: 玄 政和
2025年9月、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)より、「生成AI開発契約ガイドライン」(以下、「本ガイドライン」)が公開されました。 これまで、AI開発契約の実務では経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(2018年)」が参照されてきましたが、ChatGPT等の生成AIの登場により、従来の「学習済みモデル構築」とは異なる法的論点が生じていました。 本コラムでは、本ガイドラインおよび添付のモデル契約書の概要についてご紹介します。
1. 生成AIにおける「開発」の実態は「カスタマイズ」
まず前提として、生成AIの「開発」案件の多くは、ゼロからモデルを構築するものではありません。既存のLLM(大規模言語モデル)等を利用し、自社業務向けに調整する「カスタマイズ」が中心です(P.4)。
具体的には以下の手法が挙げられます。
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ファインチューニング・転移学習:既存モデルに追加データを学習させる(P.5)。
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プロンプトエンジニアリング:回答精度を高めるための指示(プロンプト)を設計する(P.5)。
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RAG(検索拡張生成):社内データベース等の情報を検索し、回答生成に反映させるシステムを構築する(P.6)。
契約実務においては、この「既存モデルを利用する」という前提を理解し、「何が成果物なのか」「権利は誰のものか」を整理する必要があります。
2. 契約形態は「準委任」が基本
本ガイドラインでは、従来のAI開発と同様に、契約形態は「準委任型」が親和的であるとしています(P.9)。
理由は以下の通りです。
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生成AIの出力過程がブラックボックスであること。
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入力されるプロンプトの内容を事前に全て予測できず、契約時点で特定の性能保証(完成義務)を負うことが困難であること(P.10)。
ユーザー側としては「請負契約」を望む場合がありますが、ベンダが第三者の提供するモデル(OpenAIのGPT等)を利用する以上、その精度を完全に保証することは現実的ではありません。したがって、準委任契約を前提としつつ、報告書等で業務プロセスを可視化する条項を設けることが実務的な落としどころとなります(P.10)。
3. 生成AI開発契約の3つの重要論点
① 成果物の定義と権利帰属(モデル自体は成果物ではない)
従来のAI開発では「学習済みモデル」が成果物の中心でしたが、生成AI開発では、モデル自体の権利は提供事業者(第三者)にあります。したがって、契約上の「成果物」は以下のような周辺システムやデータとなります(P.11)。
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RAGシステム・データベース
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プロンプト(指示文)
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PDF等をテキスト化するパーサー等の周辺プログラム
【権利帰属の考え方】 これら成果物の著作権については、ベンダが他案件でも横展開したい「汎用的なノウハウ(プロンプトやシステム基盤)」についてはベンダ帰属、ユーザー固有のデータが強く反映される部分についてはユーザー帰属とするなど、案件ごとの切り分けが重要です(P.11)。 モデル契約書では、A案(ベンダ帰属)、B案(原則ユーザー帰属だが汎用部分はベンダ)、C案(共有)の3パターンが提示されています(P.16)。
② 第三者サービスの利用に伴うリスク分担
開発にはChatGPT等の第三者が提供する有償サービスを利用することが多いため、以下のリスクを契約で手当てする必要があります。
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利用規約の遵守:ユーザー・ベンダ双方が提供元の利用規約に従う必要がある(P.11)。
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仕様変更・アップデート:提供元の仕様変更によりシステムが動作しなくなるリスクについて、ベンダは責任を負わないとする免責規定が重要になります(P.11)。
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入力データの学習利用:秘密保持の観点から、入力データがAIの学習に使われない設定(オプトアウト等)になっているかを確認し、契約上の義務とする必要があります(P.15)。
③ 新設された「アセスメント契約」
従来のガイドラインでは「PoC(概念実証)」からのスタートが一般的でしたが、生成AIでは「そもそも生成AIで解決できる課題か」を検討する「アセスメント段階」が重要視されています。 本ガイドラインでは、新たに「アセスメント実施にかかる契約書」のひな形が提供されており、PoCの前段階での有償コンサルティング的な契約実務に対応しています(P.8、資料編1-2)。
④非保証条項
企業が生成AI導入を進める際、ベンダから提示される契約書には、生成AI特有の「非保証条項(ハルシネーションや権利侵害の非保証)」が含まれることが一般的です。
本ガイドラインのモデル契約書では、ベンダは「第三者の知的財産権を侵害しない旨の保証を行わない」とする条項(非保証条項)が含まれており(P.27)、ユーザー側はこれを前提に、リスク許容度を判断する必要があります。
5. 終わりに
今回のガイドラインは、ユーザー・ベンダ双方にとって公平かつ現実的なラインを示しており、今後の生成AI開発契約において参照すべき文書といえます。生成AI開発に関わる企業は、ユーザー・ベンダを問わず、ぜひモデル契約書別紙の記載例(資料2)(P.17)を含めて参照することをお勧めします。
また、実際の契約交渉・締結の場面では、モデル契約書をベースとしつつ、個別具体的な事情を踏まえた加筆修正を行ったり、契約の相手方からの修正要望についての検討を行ったりといった作業が必要となります。当事務所では、生成AI開発契約の作成・チェックにも対応しておりますので、お困りの企業様はお気軽にご相談ください。