生成AI「プリンシプル・コード(基本原則)」~知らないでは済まない大原則の公表~

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弁護士: 岡本共生

はじめに

本日(8月18日)午前に開催された、内閣官房知的財産戦略本部の「AI時代の知的財産権検討会(第13回)」において、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」が公表されました。
https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/titeki2/ai_kentoukai/gijisidai/dai13/index.html

第10回検討会(令和7年12月12日)で示された案が、パブリックコメントに付されて、事実上固まったものです。本コードの案は、有識者会議において座長一任とされ、事実上了承されました。政府は近く基本原則として決定し、秋にも適用する予定とのことです。
コーポレートガバナンス分野のスチュワードシップ・コード等を参考とした「コンプライ・オア・エクスプレイン」の形式を採用しており、原則を実施するか、実施しない場合はその理由を説明することを求めるものです。そのため、法的拘束力を有する規範ではないと明記されています。

その内容は、要旨、生成AIの学習方法や学習データの種類を公表し、クリエイターら権利者からの照会に答えるよう促すものです。以下、実務上のポイントを3点に絞ってご紹介します。

1 誰が対象になるのか

本コードの名宛人は、「生成AI開発者」と「生成AI提供者」(両者を総称して「生成AI事業者」)です。公衆に提供していない研究・開発段階にとどまる者は含まれません。また、1つの法人が保有するデータのみを用いて、当該データ提供者や限られた範囲の者だけに提供する社内特化型の生成AIも、原則として対象外とされています。

他方で、注意すべき点が2つあります。
第一に、汎用モデルのライセンスを受けて特定業界向けに作り込んだ事業者も「生成AI事業者」に該当し得ることです(ただし、対応が求められるのは付加した部分に限られます)。
第二に、日本国内に本店等を有しない事業者であっても、日本に向けてサービスが提供されていれば適用を受けるとされていることです。

2 何を開示するのか──開示対象事項と具体例

原則1は、コーポレートサイト等において「概要開示対象事項」を開示し、権利者・利用者を含むすべての者が閲覧できる状態にすることを求めます。対象は、使用モデル関係(名称・バージョン、公開日を含む来歴、アーキテクチャ・設計仕様、利用規定、トレーニングプロセスの内容)、学習データ関係(データの種類、ウェブクロールや第三者から取得した非公開データセット、公開データセット、合成データの利用有無と目的、クローラの目的・名称・収集期間)、アカウンタビリティ関係(トレーサビリティ、責任者の明示、責任の分配、文書化)です。

同時に公表された参考資料1は、事業者の開示例を具体的に示しています。たとえば学習データについて「テキスト、画像、音声、動画」、クローラについて「○○bot:〇年〇月〇日より継続的に収集」といった記載例が挙げられています。エクスプレイン(開示を実施しない理由の説明)の例文まで用意されている点は、実務上たいへん参考になります。知的財産権保護の措置としては、ペイウォールやrobots.txt等の機械可読な指示に従うクローラの採用、学習ログの一定期間の保持、いわゆる海賊版サイトへのクロール回避、電子透かしやC2PAへの対応、権利者向け窓口の整備などが並びます。

3 権利者・利用者からの照会(原則2・原則3)

原則2は、法的手続を現に行い又は準備している権利者やその代理人からの照会に対し、示されたURL等の情報が学習・検証に用いられたデータに含まれているか否かを回答することを求めます。原則3は、生成AIで生成物を作った利用者からの照会について、同様の回答を求めるものです。生成AIを使う側にとっても、自らが照会の主体になり得るという意味で、無関係ではありません。

もっとも、照会の側にも要件が課されます。要求者に該当することを示す理由、回答の利用目的の明示と目的外利用をしない旨の誓約、対照情報の提示と開示を求める理由の特定が必要です。細則では、濫用防止のための手数料や回数制限を設けることも想定されている一方、照会を萎縮させるような措置は避けるべきとされています。なお、本コードによらない情報収集手段として、当事者照会(民事訴訟法163条)や文書提出命令の申立て(同221条)があることにも触れられています。

おわりに

本コードは、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)(いわゆるAI法)の趣旨を踏まえ、策定されました。事業者の営業秘密や安全性・セキュリティに関する機微な情報の強制的な開示を求めるものでもありません。

とはいえ、受入れを表明した事業者は、内閣府知的財産戦略推進事務局への届出と年1回の見直し・更新が期待されます。利用規約に本コードの適用を制限するオーバーライド条項を置くだけでは「エクスプレイン」として不十分とされている点にも留意が必要です。適用開始は秋の予定とされており、今こそ自社の開示体制や照会対応の窓口を点検しておくべき時期といえます。